東京高等裁判所 昭和25年(う)281号 判決 1950年3月25日
被告人
西村太郎
主文
本件控訴は之を棄却する。
理由
前略。先づ弁護人の控訴趣意書第二点について按ずるに、原判決が所論のように、被告人は、(一)昭和十六年四月横浜区裁判所に於て窃盗罪により懲役二年に処せられ当時その刑の執行を受け終つたものとして、刑法第五十七条第五十九条を適用していることは原判決自体に依つて明かであるが、当裁判所の職権調査に基く法務府矯正保護局指紋掛の当裁判所に対する回答書の記載に依れば、被告人が前示横浜区裁判所に於て窃盗罪に依り懲役二年に処せられた判決の言渡の日は昭和十七年五月二十五日であつて、該判決は即日確定し、被告人は同日から刑の執行を受けたので昭和十九年五月二十五日満期出所すべきであつたところ、同年四月仮釈放に依り出所した事実を認めることができるので、この被告人の横浜区裁判所に於て懲役二年に処せられた前科は、原判決の認定した日時によるも将又当裁判所の右の認定に依る日時によるも、被告人の原判示犯行の日である昭和二十四年十一月十一日から遡つて五年以前に既にその執行を受け終つたものであること明らかである。従つて原判決が被告人の右窃盗罪の前科をも累犯関係にある前科として刑法第五十七条第五十九条を適用処断したことは、所論のように法令の適用に誤りがあるものといはねばならないのであるが、刑法第五十九条を適用しても、同条は三犯以上の者も再犯の例によるものと規定しているのであるから、同法第五十七条に依り累犯加重をすることとなり、結局窃盗罪につき定めた懲役の長期の二倍以下で処断することに帰するので、原判決の右の法令適用の誤りは判決に影響を及ぼさないものと認めざるを得ない。よつてこの点の弁護人の論旨は理由ないものとしなければならない。